プレミアムディーゼル 技術的視点からレガシィディーゼルをみる



スバル初となるディーゼルエンジン開発は3年前の2005年春に企画された。今年2月のACEA(欧州自工会)ウインター報告では2007年は実に新車登録の53.3%がディーゼルになったと報告されているが、2005年の時点でも50%をわずかに切る程度の比率に達していた。
ディーゼルを持たない欧州のスバル販売店では、販売扱いを止める検討をする店まで現れたという。どうしてもディーゼルが必要なのはみな切実に感じていた。しかし、スバルのコア技術はシンメトリカルAWD、ご存知、水平対向エンジン+全輪駆動。ディーゼルを持たないメーカーがよくやるような、他社エンジンを購入して現存するシャシーに搭載する手法は不可能だ。
そこで当時の社長である竹中氏は、ボクサーディーゼルの開発を決断したのである。そして2008年、スバル360から始まるスバルの歴史における50周年という節目となる今年をデビュー年に決めたという。やるからには、ボクサーエンジンの特徴を12分に発揮したい。物理的構造で完全バランスが得られる水平対応エンジンは、ディーゼルにこそ相応しいのではないか?確信があったかは定かではないが、かなりの期待はあったと思う。その期待と不安の入り乱れるなかで開発はスタートした、しかも期間は3年。
搭載車種の選定も悩んだという。フォレスターやインプレッサで始めるべきかレガシィで始めるべきかにおいては、レガシィのプロダクトジェネラルマネージャーの増田さんが、レガシィでやる意味を説得したという。その理由は二つ。まず、スバル初のディーゼルなのだからただスパークプラグをなくしただけではだめで、他社の先行するディーゼルを凌駕する動力性能、静粛性、環境性能、等、全てにプレミアムである必要があった事。「プレミアムエンジンという位置づけとなれば搭載するクルマ、スバルを代表するブランドのレガシィしかあり得ないと」増田氏。もうひとつの理由とは、あとでこっそり教えてくれたのだが、「コスト」。初めての燃焼機構、周辺レイアウトの大幅な変更など、ボクサーディーゼルの開発にかかるコストの高さは容易に想像がついた。だからこそ、増田氏が全責任をもって進めたいという背景から、レガシィにもなったという。
3年間で新設計エンジン、しかも、ガソリン火花点火エンジンしか知らない人たちが、ディーゼル自己着火エンジンを作るのだから、相当の意思と覚悟がなければ完成を見ないというのは、正しい判断だったのだろう。
ボアピッチ98.4mmの意味。
ボクサーディーゼルのボアピッチは*98.4mmと、EZ30;6気筒3Lボクサーエンジンと同一だ。エンジンのボアピッチはエンジンの基本スペックであり、ボア×ストロークといったバリエーションの違いはあれ、ボアピッチが同一であれば同一エンジンファミリーといってもよい。つまり、今回のボクサーディーゼルは現時点の最新設計の水平対抗ガソリンエンジンであるEZエンジンファミリーとすることで、コストメリットの最大限利用と、最新アイテムの投入を可能としたのだという。
さて、これからが興味深い。まずディーゼルエンジンはガソリンエンジンと異なり、同じ排気量のエンジンでも、圧縮比は高いし、燃焼形態が異なる事から、その要求されるスペックが異なる。一番異なるのはボア×ストローク。スパークプラグで着火して将棋倒しのように火炎伝搬で燃焼室内全体に炎を行き届かせるガソリンエンジンと、軽油を燃焼室内に噴射して、その噴射率波形によって、火炎=燃焼をコントロールするディーゼルエンジンでは、エンジン回転数の最適化するポイントが異なるし、ボア×ストロークも違う要求値となる。同一排気量(ベースが3L、6気筒なので、2Lでは4気筒と、1気筒あたり同一になる)において、ディーゼルはよりロングストロークを要求する。
しかし、車両搭載の観点から横幅の制限は現在と同一でなくてはならない。そこで、限りなくロングストローク設計として、横幅を詰めるのはヘッドを薄くして行ったという、そのため、ボクサーディーゼルに搭載されるデンソー製インジェクターは、競合他社より一番短い、特別設計のものだという。このようにして実現されたエンジンはディーゼル燃焼に相応しい、ボア×ストロークを持ち、さらに現行レガシーに搭載可能な横幅をもち、最新コンパクト6気筒エンジンの4気筒版なので、現行ボクサーガソリン(EJ20)に対して61.3mmという全長(前後長)短縮も図れたという。
148g/kmの理由。
メーカー平均でのCO2排出量140g/kmというのは欧州自工会が自主規制として定めた数値。欧州メーカーへは2008年まで、日本や韓国などの輸入車メーカーへは2009年までと決められている。2007年時点で約228g/kmとあまり優秀でないスバルにとって、ようやく手に入れたディーゼルなのだから140g/kmという「数値」が欲しかったと思う。しかし、B4の最良スペックでも148g/kmと発表されている。
この点についても、増田氏はこう語る。「レガシーであるためにはあれが限界でした」と。ボクサーディーゼルを開発すると同時に、ディーゼルレガシィという「クルマ」を開発した今回、ハンドルを握って、乗って、走って、レガシィの走りを守れるか、あるいは更なる向上ができるかという見方をした結果だという。タイアの転がり抵抗を減らしたり、なんらかの部品を外したりして軽量化を行えば、140g/kmを達成できたかもしれない。しかし、レガシィという乗り味を維持することが大命題にあるための英断だったのだろう。
開発期間の短さもあって、現在組み合わされるトランスミッションは5MT。今後、6MTやAT搭載の開発もしていくだろうから、そのなかで燃費(=CO2排出量)の向上(低下)も継続して突き詰めていくという。
高回転まで透き通る音。
音が違う。。。らしい。残念ながら、今回の技術発表会では音の実録紹介はなかったので実の音をコメントすることは出来ないが、発表とおり、ひと味違うのだろう。なぜならば、ディーゼルがガソリンに較べうるさい?(私はあのメカ音がわりと好き)のは、燃焼音自体と、機械騒音の相違のためだ。燃焼音は、先に説明した燃焼形態がことなるからで、それでも最新のディーゼルは噴射回数を数回に分け、音もマイルドになっていきている。機械騒音は、どうしても高圧ポンプとインジェクターの作動音が大きくなる点。そして、その急激なトルク発生に伴う、エンジン内部の回転部品からの音が大きくなる点だ。
おそらく前者の燃焼音というのは、ボクサーエンジンだからといって通常のエンジンと変わりなく、最新の他社のクリーンディーゼルとよばれるエンジン同様だ。しかしながら、後者のエンジン内部、あるいはブロックから発生する音には大きな違いがあるはずだ。クランクシャフトやブロックは水平対応ならではの高剛性のため、それらが振動して発生する騒音はかなり異質なものになることだろう。そして、その効果がより発揮されるのは高回転領域なので、ボクサーディーゼルの音に関する大きな違いは高回転まで透き通る音、ということになるのだろう。
スバルの発表によると、欧州のジャーナリスト達も音は絶賛していたとのこと。この点は清水さんの試乗インプレッションを耳を澄まして聞いてみたい。
(文:長沼 要)
これから。。。euro5, tier2bin5, post 新長期
今回発表のレガシィの排ガス規制はEURO4適合との事。もうじきEURO5が始まるので、正直、先行適合して欲しかった気持ちは隠せないが、デンソー製コモンレールシステムは180MPa(約1800気圧)、クールドEGR、酸化触媒、DPFといった排出ガス低減システムを搭載しているので、それらの調整をかえることで、EURO5 適合は可能だろう。
そして、Tier2Bin5, ポスト新長期といった、北米、日本向けには、同一システムの調整、適合だけでは困難だだ。どのようなNOx低減システムを使うのか興味がつきない。国内投入が2009年になるか、2010年になるかの明言はしてくれなかったが、必ず販売してくれると期待している。

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